MDV 20th 2003-2013

MDV20周年特別インタビュー

病院DXの最先端をいく石川県七尾市・董仙会恵寿総合病院

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院
理事長 神野正博 様
理事長補佐 神野正隆 様

病院DXの最先端をいく石川県七尾市・董仙会恵寿総合病院

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院
理事長 神野正博 様
理事長補佐 神野正隆 様

社会医療法人財団董仙会(石川県七尾市、理事長:神野正博)が運営する恵寿総合病院(病院長:鎌田徹、426床)は病院DX(デジタル・トランスフォーメーション)を加速させています。2021年度から順次、定型業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入。今年4月には病院内のデータを一元管理する「データセンター」を設置、また同時期に院内固定電話とPHSを廃止し、520台のスマートフォン(モバイル電子カルテ)を導入するなど矢継ぎ早にDX施策を打ち出しています。消化器内科医で長男の神野正隆氏が理事長補佐として理事長を支えています。

同病院が病院DXに取り組むきっかけは、30年前にさかのぼります。神野理事長が1993年4月に院長に就任して間もない頃。取引のあった銀行の新任支店長があいさつに訪れた際に放った一言を神野理事長は今でも忘れません。

「貴法人の財務状況はかなり深刻で、このままでは職員に給与を支払うこともできなくなるでしょう。当行としては新規融資も難しくなります」

それまで臨床現場一筋だった神野理事長は、その言葉に衝撃を受け、院長に就任して早々、病院トップとしての責任の重さを実感することとなりました。

当時、介護老人保健施設を複数開設したり、心臓血管外科を立ち上げたりするなど積極的な設備投資をしていただけに財務状況は悪化。経営改善は急務の課題だった。神野理事長はその時のことを振り返りながら、こう話します。

「突然、当法人の財務状況が悪化していることを知らされ、病院継続のためには改革を断行しなくてはいけないと痛感した」

神野理事長の改革の一手はいち早く打ち出しました。院長に就任した同じ年の12月、SPD(Supply Processing & Distribution)システムの導入に踏み切りました。バーコードを使った診療材料の管理をスタート。診療材料院外SPD化で年間約8600万円、臨床検査LAN稼働・外注会社1社化で年間約7700万円、薬剤在庫管理システム・納入卸1社化で年間約5800万円の、それぞれコスト削減を実現しました。2021年度から導入したRPAにより定型業務やデータ収集などの効率化が進み、初年度には9000時間を削減。現在、70機のRPAが稼働し、その効果は初年度を上回っています。

院内の通信手段を全面的にスマホにした理由の一つには、これまでのPHSなどによる音声通信の手段は、受け手の進行中の作業を妨げていたことがります。1例としては、モバイル電子カルテやTeams(全職員にアカウント付与)のチャット機能を活用することで、情報の送り手は、相手に確実に状況を伝えることが可能になり、受け手は作業の手を止めることなく関係する多職種で同じ情報が共有(1対1から1対多の情報共有)できるようになりました。

PHR「カルテコ」で患者参加型医療の実現

2017年9月には、患者が診療情報などをスマホでいつでもどこでも閲覧できるPHR(パーソナルヘルスレコード)「カルテコ」サービスの提供を開始しました。

PHRとは人が一生涯の健康・医療情報を自ら管理しようというツールです。病院にとっては患者に自身の情報を持ってもらうことで健康管理への意識を高めてもらおうという思いがあります。

神野理事長は「カルテコは未病や健康維持だけでなく、例えばがんの患者さんならば、腫瘍マーカーがどうなっているかを医療者と共有し、とてもつらい抗がん剤治療をしたとして、データがよくなったことを互いに確認できるようになれば、その後も治療を継続しようということになるかもしれない。カルテコは参加型医療の時代に必要だ」と話します。

カルテコでは健康診断の結果を紙でなく、スマホなどの画面上で過去と比べたり、エックス線やマンモグラフィなどの検査画像を確認したりできます。健診で医師が「要精密検査」と「要治療」と判断した人に対して、健診結果が届いた後、2週間が経過したタイミングに「受診勧奨メール」を送信して、仕事などが忙しくて病院を受診することを忘れてしまった人に来院を促し、病気の早期発見・治療につなげています。

理事長補佐が経営に参画、病院DXが一段と加速

神野理事長のスピード感ある経営手法は、父である正一・前理事長譲りです。前理事長は恵寿総合病院の前身である神野病院が1964年5月に厚生省(当時)令で救急指定を受けると、同年9月には救急病棟を新築。同時に購入したベンツ社製の救急車は、七尾の街を走り回り大活躍しました。同社製救急車は日本第1号だったといいます。

30年間に渡り圧倒的なスピード感で改革を進めてきた神野理事長に2020年4月、頼もしい右腕が現れました。金沢大学消化器内科の医局に所属していた神野正隆氏が恵寿総合病院に入職し、消化器内科科長として臨床の第一線に立ちながら理事長補佐として経営に参画し、病院DXを推進しています。

神野理事長補佐はMBA(経営学修士)ホルダーでもあります。祖父および父譲りのスピード感のある経営手法で新たな仕組みとして、徹底的にデータを活用するデータ経営を法人内で一気に浸透させ、病床の効率的な運用を図りつつ、患者の流れをスムーズにする入退院管理システム「PFM(Patient Flow Management)を2022年4月にスタートさせました。

PFMとは入院前や入院早期から患者の情報を収集して、安心・安全な入院生活や退院に向けた支援をするものです。加えて「恵寿式PFM」は入退院に関わるあらゆる指標をリアルタイムに俯瞰的にとらえるモニターを内製化し、効率的な院内外のベッドコントロールを実現している。PFMは着実に結果を出して、病院の収益面でもプラスに働いています。

今年4月、院内の通信手段を全面的にスマホにしました。スマホは病院スタッフが働きやすくなるためのツールととらえています。これまでのPHSなどによる音声通信の手段は、受け手の作業を妨げていました。活用方法のほんの1例としては、スマホのチャット機能を活用することで、情報の送り手は、相手に確実に状況を伝えることができるようになり、受け手は作業の手を止めることなく多職種で同じ情報を共有(1対1から1対多の情報共有)できるようになりました。

神野理事長補佐は「データなどを活用したDXは職員の働き方改革を後押しするためのもので、職員の挑戦を促し、満足度を上げるためのものだ」との確固たる信念を持っています。また、「病院内にはまだまだたくさんの有益なデータがある。それらのデータを一元管理し可視化することで、働く環境の改善活動を促し、職員それぞれの職能を存分に発揮し、本来の業務により専念できるようにしたい」と意気込みます。

また神野理事長補佐は、臨床面からの医療の質向上や予防医療のための取り組みもしています。金沢大学病院と連携しながら、石川県では初の「膵がん検診」を2021年からスタートし、無症状の段階の早期膵がんを高い確率(受診者の5%)で発見し、早期治療につなげています。

DXは単なるデジタル化ではなく、根本的な仕組みの変革

神野理事長はDXと、デジタル技術を用いてサービスなどの付加価値を高めるデジタライゼーション(Digitalization)とは、大きく意味が異なると強調します。DXはトランスフォーメーションなので、根本的な仕組みの変革が伴うといいます。神野理事長は、恵寿総合病院を運営する社会医療法人董仙会のスローガンに「人を責めるな、しくみを責めろ」と掲げています。DXをばねに、病院で当たり前だったすべてのことを見直して、適切な医療を提供できる仕組みを構築したいとの思いを持っています。

この国は今後、団塊世代のすべてが75歳以上の後期高齢者となる2025年問題、医療・介護需要がピークを迎える2040年問題など、難題が続きます。病院が提供する医療は現在、「入院」と「外来」に大きく分けられるが、神野理事長は、近い将来、「入院」と「在宅」になると予想しています。後期高齢者も、さらに年を重ねて病院にも来ることができない状況になるというのです。

神野理事長は、「これから特に地方では患者が減り、同時に医療を提供する医療者も不足していく。持続的に地域で医療を提供していくには病院DXは必須になる」と話します。
董仙会と関連の社会福祉法人徳充会は、「けいじゅヘルスケアシステム」という統合呼称を使い、能登半島から金沢市に展開する両法人の医療介護福祉情報をシームレスにまとめる電子カルテシステムの運用を2002年に開始しています。

在宅医療の需要増加や、介護が必要な人が増えることを見据えて、救急医療を提供する恵寿総合病院の中に、2022年9月に介護部、今年6月には地域包括ケアステーションをそれぞれ立ち上げました。これまでも訪問診療・看護・介護・リハビリテーションなどで在宅医療に取り組んできたが、機能を集約して効率的にサービスを提供できる準備を進めている。近い将来を先取り、先手を取っていく構えです。

【神野正博理事長】

1980年 日本医科大卒業。金沢大学第二外科入局、
1986年 金沢大大学院を修了(医学博士)。浅ノ川総合病院を経て、金沢大学第二外科助手。
1992年 恵寿総合病院外科部長。翌1993年院長
1995年 医療法人菫仙会理事長に就任

【神野正隆理事長補佐】

2006年 福井大卒業。2008年金沢大消化器内科(旧第一内科)入局。
2020年4月 恵寿総合病院に入職し理事長補佐に就任。
2021年 金沢大学院を修了(医学博士)
2023年 国際医療福祉大学院を修了(MBA)
恵寿総合病院消化器内科科長、
内視鏡センター長、薬剤管理センター長、入退院管理センター長、データセンター長を兼務。

以上

#1
社会医療法人慈生会等潤病院
伊藤雅史理事長・院長
#2
社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院
神野正博理事長
神野正隆理事長補佐
#3
筑波記念病院
池澤和人副院長