【ビッグデータの活用事例】業界別事例と保険業界での商品開発について #029
2023.01.13
2024.05.10
近年、小売業や製造業、医療業界、保険業界など、さまざまな分野でビッグデータが活用されています。なかでも、保険業界では異業種の企業と共同でビッグデータを活用して、商品開発をする保険会社も出てきているほどです。
この記事では、医療業界や保険業界でのビッグデータの活用事例を中心に解説。保険会社のデータ収集における課題やアクチュアリーとデータ活用の関係性も紹介しています。
目次
ビッグデータとは
ビッグデータとは、ある目的のために大量かつ多種類に渡って集められたデータのことです。
「量(Volume)」「種類(Variety)」「速度(Velocity)」「Veracity(真実性)」「Value(価値)」の「5つのV」によって定義されています。
一般的にデータは行と列で構成された表形式で管理されることが多いですが、ビッグデータは文書や画像、SNSのメッセージなどの非構造化および非定型データも含まれているのが特徴です。
ビッグデータを活用するメリット
ビッグデータを活用することで、以下3つのメリットが得られます。
①現状を把握できる
従来は経験や人の勘に頼って現状を把握していましたが、ビッグデータを活用することで現状把握に必要なデータの収集や分析が容易になりました。
リアルタイムで状況を分析して一目でわかるように可視化することが可能で、業務に携わる職員だけでなく、経営陣など組織全体で業務の進捗状況を確認できます。
②マーケティングに活用できる
ビッグデータを活用することで商品・サービスの需要を予測できるほか、抱えている課題やその原因も特定できます。需要や課題を把握することで収益をあげるための施策を打てるので、マーケティングの成功率アップにつながるでしょう。
③商品・サービスの開発に役立つ
既存の商品・サービスやバイヤー、顧客のニーズに関する情報を収集して分析することで、新たな商品・サービスの開発につなげられます。ビッグデータを活用することで、新たなビジネスチャンスを得られるのです。
ビッグデータの活用事例
かねてビッグデータは小売業や製造業、観光業などで活用されてきましたが、近年では医療業界や保険業界でも活用されています。
以下では、医療業界と保険業界のビッグデータの活用事例を紹介します。
医療業界
医療業界では、医療機関のカルテやレセプトの集計データを分析して治療や新薬開発につなげています。
例)
- 電子カルテによって各病気の症状や治療情報を連動させることで、総合的な治療を可能にしている
- CTやレントゲン画像のデータを分析して、過去の患者のデータから似たような症例を探し出し、早期発見や早期治療につなげている
- 治験では確認しきれない効果や副作用を発見して、新薬開発をスムーズにしている
保険業界
保険業界では、ビッグデータを活用して保険商品の提供や営業職員のサポートをしています。
例)
- 顧客情報や健康診断結果を分析し、(一部)保険商品の保険料などに反映している
- 顧客の健康情報をスマートフォンアプリやウェアラブル端末から収集し、顧客の健康サポートをしている
- 顧客情報から特定保険商品の成約予測をして、営業職員をサポートしている
なお、ある生命保険会社は他企業と医療ビッグデータを生命保険事業に活用するための共同研究を実施し、「生活習慣病に起因する入院の可能性とその日数」を予測する定量評価モデルを開発しました。保険の引受け基準を見直すことにより、健康状態を理由に保険加入が難しかった顧客も加入できるようになったという事例があります。
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ビッグデータとは?定義や活用方法を解説
保険業界ではビッグデータの活用が進んでいる
前述のとおり、保険業界では保険商品の開発や顧客の健康サポート、営業職員の営業をサポートなど、さまざまな場面でビッグデータの活用が進んでいます。
以下では、保険会社が活用するデータの種類や海外の保険会社におけるビッグデータ活用状況など、さらに深掘りして解説します。
保険会社が活用するデータの種類
これまで保険会社では、保険の加入に必要なデータや保全・収納を中心とした各種保険事務を行うためのデータを顧客情報として管理するのが一般的でした。しかし、近年ではレセプトといった外部の医療情報をビッグデータとして分析し、活用し始めている保険会社も出てきています。
保険会社における活用データの種類は、以下のとおりです。
海外の保険会社におけるビッグデータ活用状況
海外の保険会社でもビッグデータの活用は進んでおり、なかでも中国の民間の保険会社では関係グループ内でデータを共有して活用しているのが特徴です。
これまで、この保険会社の事業の柱は、「保険」「銀行」「投資」でした。しかし、近年では金融サービスと情報技術を結びつけた「フィンテック」を新たな柱として、「インターネット+総合金融」の戦略を打ち出しています。
この保険会社社ではフィンテック分野に多額の資金を投じ、声紋・顔といった生体認証のほか、AIによる予測技術や意思決定技術、インフルエンザなどの流行予測のサポート事業を開始。この保険会社のグループが保有するビッグデータや技術は、公的保険制度にも影響を及ぼしつつあるようです。
保険会社のデータ収集における課題
保険会社ではビッグデータの活用が進められていますが、データ収集においてデータのバラエティが少ないこととデータの更新頻度が低いことが課題として挙げられます。
保険会社で保有しているのは保険事務上で必要なデータのみで、既存の顧客情報以外のデータはほとんど保有していません。保有するデータ量が少ないため解析の幅が狭くなり、ビッグデータの活用自体が限定的なものとなっています。また、保険金や給付金の支払いなどがないと基本的にデータは更新されないため、保有しているデータの多くが契約時のままなのです。
データのバラエティを増やして更新頻度を高めることで、データ解析により発見される相関関係が多様になります。しかし、保険会社では保険契約に関わるデータ収集がメインであるため、データのバラエティを増やすのは難しいのが現状です。
そのため、今後は社外からデータを収集して、データのバラエティを増やすことが必要になっていくでしょう。
保険業界におけるビッグデータ活用の未来
保険会社が多種多様なデータを得て分析をすることで、新しい保険商品の開発や顧客一人ひとりに合わせた保険商品の提案が可能となります。
たとえば、顧客の健康状態に合わせた保険商品を、顧客に合った保険料で提供することが可能です。また、金融取引情報や購買情報から顧客の趣向を分析し、年金保険や学資保険などの保険商品を提案することもできるでしょう。
保険会社としてデータ分析をするにあたり、「保険業界および各社における知識」「機械学習を支える理論的な背景を理解する力」「データサイエンスを実装・運用する力」が必要です。
そのため、今後はさらに、数理業務を担当する専門職のアクチュアリーとITエンジニアの活躍が期待されるでしょう。
アクチュアリーとデータ活用の関係性
ビッグデータを活用するにあたって、アクチュアリーの存在は必要不可欠です。
アクチュアリーとは、生命保険や損害保険、年金分野で数理業務を担当する専門職です。
アクチュアリーは経済・医療・自然災害などの統計データをもとに、確率・統計といった手法を用いて保険事故発生率や損害額等を分析するほか、保険料額の算定や保険商品の開発にも携わっています。
アクチュアリーの人数は2017年は約5,000人でしたが、2022年3月末時点では約5,500人と増加。今後、保険会社でビッグデータの活用が進むにつれ、アクチュアリーはさらに増えることが予想されます。また、アクチュアリーは主に生命保険会社や損害保険会社、信託銀行などに所属していますが、近年では各省庁やコンサルティング会社など、活躍の場が広がっています。
メディカル・データ・ビジョン株式会社では、日本最大規模の診療データベースを保有しており、クライアント企業様のオーダーに応じた分析・データ提供が可能です。
保険開発などで医療ビッグデータの活用を検討されている場合は、ぜひ一度ご相談ください。