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分析後の成果物についてですが、例えばこれからの未来予測としての元データなのか、もしくは実態把握として計画に対して順調に進んでいるかを捉えるために使うのかなど、いくつかの使い方があると思いますが、その結果の具体的な使われ方について過去の事例を紹介してください。
松林
様々なパターンで利用されています。例えば、上市前の薬剤の場合は、今後の開発においてどの領域や分野で患者が困っているのかを把握するために使用します。上市後の薬剤の場合は、現状を把握し、弱点を補完し、強みをさらに伸ばすために活用します。また、プロモーション活動の結果を評価したり、将来の市場予測や売上予測に使用したりするニーズもあります。本当に幅広くご利用いただけているのがマーケティング部門かなと思います。
やはりこのような分析をするためには、データのカバー率が最も重要な要素になってきます。事業スタート当初のMDVのデータベースはまだ施設数15病院、実患者数100万人程度の規模でしたので、日本全国の傾向として一般化することは難しいと判断されていました。そのため、製薬企業のマーケティング部門での積極的な活用はなかなか進みませんでした。しかし、施設数500病院・実患者数1,000万人を超える規模になり、ある程度の代表性を示せるようになってからは、マーケティング担当者の方々からも徐々に引き合いが来るようになってきました。
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マーケティング部門の方とお話ししたりすると、「フォーキャスティング資料として使う」と言われることがあります。その場合、MDVデータが具体的にどのように活用されているのでしょうか?
松林
当社のデータは後ろ向きのデータですので、過去の実臨床現場での使用実態を見ることができます。過去から現在までの傾向を把握することで、将来を予測する際により高い精度で予測できます。
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当局対応でもMDVデータが使われているという話がありました。私のイメージでは、マーケティングの方が当局と折衝をして、当局からの照会事項に対応するというよりは、むしろ安全性部門のミッションに関連していると思っていました。マーケティング部門の方が当局からの照会事項に対応する具体的なケースにはどのようなものがあるのでしょうか?
松林
実際の当社のデータを利用されるお客様には、第三者への情報開示が必要な場合には第三者開示申請をお願いしています。申請書を見る限りの感想ですが、当局対応の利用目的で申請される場合は、申請者は主にマーケティング部門の方となっていますが、添付されている資料は主にPV(安全性情報)部門によって作成されていることが多いです。実際の書類作成や公表には専門の部門が関与し、データの収集などの一部はマーケティング部門が担当しているケースが多いと思います。
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マーケティング部門の方が初めてMDVデータを利用する際には、個別の集計結果を得るアドホックのデータ分析や、Webツールサービスなどが提供されているようですが、最初のステップやその後の進め方には、どのようなパターンや傾向があるのでしょうか?
松林
MDVデータを初めて利用する方には、まずはニーズ別のアウトプットをフルカスタマイズで作成するアドホックでのデータ集計を試していただくことをお勧めします。これにより、RWDの特徴を理解していただけます。その後、分析内容によりますが、個別のアドホック集計を毎回するよりも、Webツールが利用可能な場合は、自身の端末で一定のフィージビリティ把握が可能なため、Webツールを検討いただくこともあります。ただし、Webツールだけでは100%の情報を網羅するわけではありませんので、Webツールとアドホック分析を並行して継続分析することが一般的です。
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それに付随して、もう一つデータセットサービス(RAWデータ)もありますが、マーケティング部門の方がデータセットを利用するケースはあるのでしょうか?もしそのようなケースがある場合、どのようなケースが考えられますか?
松林
データセットの利用に関しては、マーケティング部門ではMA(メディカルアフェアーズ)部門の方々に比べると少ない印象があります。マーケティング部門は幅広い業務を担当し、スピード感を求められるため、自身でデータ分析をするケースはあまり多くない印象です。一方で、お客様が年間の全領域データ契約をされている場合、費用を支払って当社に集計を依頼するケースも最近は多く見られます。
データ分析やテーブル構造に精通している方々が自身でデータセットを利用する場合もあり、たとえば、不要な情報を省き、必要な情報のみを抽出して加工したデータセットを、既存のBIツールに取り込むことで、さまざまなパターンを見ることができるので非常に分析の幅が広がります。このようなケースでは、加工されたデータセットを提供しています。
大手製薬企業を中心に、データセットを手元に保有し、専門の部署がデータ分析をして、他の部署からの依頼に応じるというスキームを採用している企業も増えてきています。もちろんRWDは万能のデータソースではありません。将来的には、各データソースのメリット・デメリットを理解した上で、それぞれの課題に対して適切なデータを正しく選択し、トータル的なデータハンドリング、分析に長けた人材を自社にいかに確保することができるかが各製薬企業の重要な課題となってくると思います。