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今回は安全性情報管理(PV・ファーマコヴィジランス)部門(以下「PV部門」)におけるMDVデータの活用事例や、「こういったケースではご活用頂ける」等についてまずはお話しいただきます。
松林
例えば、マーケティング部門や、メディカルアフェアーズ部門と比較しますと、PV部の安全性領域でのデータ利活用サービスの立ち上がりまでには非常に時間を要した印象があります。PV部門においてGPSP省令改正前は実際の治験データが主とされていましたので、リアルワールドデータを利活用するという風土・文化がまだできていませんでした。データのご紹介をしてもきちんとバリデーションが取れてないなどといったネガティブなご意見をいただくことが多く、なかなか利活用が進まなかったと記憶しています。
しかし、それが一転したのは2018年4月に改正GPSP省令が施行されたことにより、製造販売後データベース調査が公に認められてから流れがまったく変わったと認識しています。
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追加で質問です、GPSP省令の改正に伴って、PV部門において製造販売後データ調査などデータ活用が進んできたと思いますしかし、例えばPV部門では製造販売後データ調査以外のシーンでもデータ活用する機会はありますか?
松林
今でこそPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)でも安全性領域においてMID-NET(Medical Information Database Network)のデータベースを利活用して、シグナル検出や、ブルーレター(安全性速報)が出た後の検査の実施率向上などが見込まれていると告知されています。しかし実際にその告知が出た後でも、この点について取り組まれている製薬会社はまだまだ非常に少ない印象です。
どの製薬会社でも他社の動向をうかがっている状態で、実際にこういった当局への対応があったなどの事例が積み重なっていかないとなかなか広がっていかないのかなと感じています。
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次に具体的に製造販売後データベース調査での事例を伺いたいと思います。もしその中で先ほどお話にあったシグナル検出や当局への対応などの事例もいくつかご紹介いただけるものがあればあわせてお話ください。
松林
では、今日は製造販売後データベース調査における、弊社での第1号案件を担当しました、EBM推進部営業担当の鈴木が同席しております。ここからは鈴木からも、当時案件を進める上で感じた様々なハードルや、苦労した点、そして現在の進捗などの話を伺えたらと思います。
最初に担当した製造販売後データベース調査案件について、まずどういった形でお客様の方からお問い合わせいただきましたか?
鈴木
当時は私自身も製造販売後データベース調査については全く理解しきれていませんでした。その中でいただいたお問い合わせでしたが、はじめは通常のデータベース調査と同じような「とある疾患における患者母数を知りたい」といった内容であったと記憶しております。
松林
製造販売後データベース調査においては、GPSP省令の改正によって、リアルワールドデータを使って分析ができるようになった。しかし、そのためにはどういうことを行わなければいけないなどの詳細も最初の段階ではあまりご提示いただけていない状況で、当時はデータベースベンダーも製薬会社も両者ともに手探りのような状態だったように認識していますが、その辺りは同じような感覚でしたか?
鈴木
手探りというと、まさにそうだったかもしれませんね。
ただ、見たいこと、調査したい内容に関しては、ある程度明確になっていました。
その上で当局に対してどういう説明をすればいいのか?どういうところに注意しないといけないのか?ここに関しては、当局を含め製薬会社も我々もまだはっきりとわからない状態で案件が進んでいたように記憶しています。
松林
実際いくつか製造販売後データベース調査を行う上でクリアしなければいけない課題がいくつかあったと思います。
その中の一つ、品質保証の部分ですが、きちんと分析ができる体制が整っているのか?データがきちんと収集されているのか?などを製薬会社側でチェックすることが義務づけられていると思います。この対応で苦労したことがあったら教えてください。
鈴木
通常、データベースの調査をする際には、データベースの構造や、テーブル変数の意味など、注意しなければいけない点は利用者である製薬会社の皆様にきちんとご理解いただいております。そして品質保証に関しても、まず医療機関からそもそもどういうデータを受け取り、どういうタイムラインで、どういうデータクリーニングをしながらデータベースを構築していくのか、こういった一連の流れを一つ一つご理解いただかないといけないので、その点手順書を整備していますが、手順書を見たところでなかなかイメージしきれない部分というのも多々ありますので、ここをしっかりご理解いただくというところがすごく大変なところでした。
松林
実際に案件対応を進める中で、品質保証の部分に関しては、最初の段階でいきなりオールクリアというわけにはいかなかったと思います。何かそこをクリアしていく過程で時間がかかった点、戸惑った点などはありましたか?
鈴木
当局と当社の様なITベンダーとの考えの差がすごく顕著に出たなと思いました。医療機関から受領されたデータもあり、処理をしたプログラムがあるので、再現性もありますし、どういう処理を行ったのかについてご説明することは可能でしたが、その文書化にあたって文面の過不足に関してはかなり議論があったと記憶しています。
松林
では次に、よく言われるアウトカムバリデーションについてですが、例えばその定義が本当に正しいのかどうかをカルテに戻って確認をすることを求められるアウトカムの案件もあったと思います。
おそらく、鈴木さんが当時担当した案件がアウトカムバリデーションを実施した当社での第1号案件だったと記憶していますが、製薬会社との取り組み、対医療機関とのやりとりなどの中で苦労したことがあればお聞かせください。
鈴木
はい苦労というとかなりたくさん思い浮かびますが(笑)
まずは具体的な案件の進め方の手順書が社内にありませんでしたので、どういう手順で何から行わなければならないのかを明確にすること、ここから製薬会社と一緒になってご相談しながら内容を決めていきました。この案件は、建付けとしては製造販売後データベース調査とは別となる研究ですが、その結果を利用することもあり、ある程度の確からしさを担保しなければなりませんでしたので、この手順からきっちり作っていった点があります。
そして製薬会社に我々から御説明差し上げる中でなかなかご理解いただきにくかった点としては、どうしても必要となる医療機関のご協力が当時はなかなか得にくかったという点です。
当社の経営支援システムの販売などを通じて直接繋がっておりますのは医療機関内の事務の方ですとか、院長先生になります。しかし実際にカルテをご覧になってアウトカムのご判断をいただくのは診療科の先生であるケースが多く、その間の連携がなかなか難しく、院長先生と現場の先生とのご判断の部分でご意見に相違があったり、事務の方は非常に協力的なケースでも、働き方改革などの面も含め、診療科の先生と院長先生からなかなかOKをいただけなかったりするケースなどもありました。
また医療機関の中において、先生方が複数名でカルテレビューをする際の判断基準に関して御判断を委ねた場合、正確なものではあると思いますが、一方で、例えばAの先生とBの先生でそれぞれ独自の解釈によりご判断の基準が若干異なったとなると、果たしてどう捉えればいいのかというところが困ってしまうので、事前にお打合せをして、ある程度の判断基準はあらかじめ示しておいた方がいいだろうなとは感じました。これはすでに論文発表で公開されている内容ですが、アウトカム定義については悪性腫瘍と重篤な感染症の2つで対応したケースで、もちろん調査票の固定はしていましたけれども、カルテ情報には転院元の医療機関で悪性腫瘍の手術を受けているとあり、そして自院での病名・治療の履歴が全くない患者さんに関して、「その患者さんは悪性腫瘍である」と判定をするか否かが先生によってご判断が異なったということがありました。
松林
実際にアウトカムバリデーションスタディーを行った事で、DPCデータやレセプトデータなどの医事会計データを基にきちんと定義さえされていれば判定に使えるという結果に至ったのでしょうか?
鈴木
論文化まで対応完了しています。ただ出てきた結果、陽性的中率と疑似的感度も出しましたが、定義によって差がありまして、どの定義を採用するかに関してはアカデミアの先生からもコメントをいただき判定をした上で採用する定義を議論しました。
松林
複数の定義の中で、それぞれ結果が出てくる。その結果をもとに、どれを今回の定義として採用するかを決める上で、様々な指標がある中、例えば統計の専門家の先生などのご意見を仰ぐ必要というのはありますか?
鈴木
あると思います。例えば、陽性的中度が約100%で疑似的感度が0%だったときに使えるのかと言われると難しいところですけれども、では陽性的中度が60%で疑似的感度が80%のものと、陽性的中度が70%で疑似的感度が50%、この場合どちらがいいのかなどについては、もちろん設定している定義にもよると思いますが、やはり統計の専門の先生も含めて定義と、出てきた結果での議論が必要になると思います。
松林
また、アウトカムバリデーションをしない製造販売後データベース調査もいくつか存在しているかと思います。
すでに公表されているアウトカムバリデーションの論文などを引用するケースや、判定基準として血液の検査値を指標とするようなケースがあるかと思いますが、そういった案件の対応実績はありますか?
鈴木
はい、対応したことはございます。
松林
それはなかなか珍しいケースですよね?製薬会社はバリデーションスタディーを実施されるつもりで、申請もRMP(Risk Management Plan=医薬品リスク管理計画)も含めて提出していたが、当局サイドの方から必要ないと判断をいただけたということですか?
鈴木
その時は当局としてバリデーション実施に関する基本的考え方を公表するすこし前の段階ではありました。それまでは必ずバリデーションスタディーは実施すべきだと認識しておりましたが、全ての案件に対して必ずしもバリデーションスタディーを行う必要はないというように変わってきたなと感じておりました。
松林
RMPを見てみると、製造販売後データベース調査を行うと公表している製薬会社は特に大手が多いように思いますが、それ以外の会社も必要に応じて製造販売後データベース調査を実施するケースが出てくるかと思います。現状では何からどう進めたら良いのかわからないとおっしゃる製薬会社もまだあるのかなと思いますが、そういったケースに対してもしデータベースの製造販売後データベース調査を行うのであれば、こういうふうに考えて、こういうアプローチをすると良いのではないか?など何かアドバイスがあれば聞かせてください。
鈴木
完全にとある方からの受け売りなのですが(笑)
GPSP省令が改定され、製造販売後データベース調査の仕組みが整い、そのほかもいろいろ整備されてきていると思いますが、今回の最も大きい点というのが、検討の進め方について・ステップを図にして示されている、ここが一番重要と思います。
調査によって何を知りたいのか?そのリサーチクエスチョンを明確にし、それに対して求められる調査方法は何なのか?利用するデータベースはなにが適切なのかしっかりと検討した上で進めましょうという形になりましたので、「データベースをどう使ったらいいのか」ということも大事ですが「何を求めたいのか」を明確にしていただけると、製薬会社も我々も進めていく中で迷うことがなくなるのかなと思います。
松林
お話にありましたが、製造販売後データベース調査を実施するのにあたっての留意点などは製薬協などでも公表されていますが、そういったものを拝見すると、あまりデータベースに触れたことの少ないご担当者様ですと、少しハードルが高く感じてしまいます。例えばこの薬剤で、このアウトカムに関して調査をしたいと考えてはいるけれど、そもそもそれで調査可能かどうか?といった場合にフォローやサポートをメディカル・データ・ビジョンに依頼することは可能ですか?
鈴木
可能です。フィージビリティー調査として、事前にデータベースを使っていただくことも可能です。当然データの構造や項目の意味、ご注意いただく必要のある点などご説明も差し上げます。
松林
現在、MDVでは製薬会社のPV出身の方とも複数名顧問契約をしております。何かお困りの際に、当局への対応も含めてフォロー可能な体制は構築できていると思っています。もちろん全ての案件が対応可能というわけではありませんが、私たちの体制をうまく活用いただくことで、より効率よく調査を進めることができます。結局、製造販売後データベース調査のメリットというのは、スピーディーかつ比較的低コストで実施できるところだとも思っております。そもそもそれがGPSP省令改正の目的の一つでもあると思いますので、データベース製造販売後調査に関する情報発信は当社でも積極的に進めていきたいと思っています。
MID-NETが構築され、GPSP省令改正後にデータベース調査が可能になったことで、データベースを使っていろいろなことができるとご理解いただけたのかなと認識していますが、PV領域において何か他の用途でデータベースを使ってみたいなどのお話を聞くことはありますか?もしくは何か新しい違う使い道や、新しい可能性みたいなものの何かアイデアがあれば聞かせてください。
鈴木
すみませんPV領域限定というわけではないのですが、今までは例えばメディカルアフェアーズの方がデータベース研究をするためにデータをご購入いただいていただけだった製薬会社が、製造販売業データベース調査でもデータベースが使えるようになったことで、会社全体としてリアルワールドデータを活用していく風潮になってきたのはすごく感じています。今までは自社で収集されたデータなどをデータベース化して自社内で保持をし、それを利活用するところに新たにリアルワールドデータがドンと入ってきた印象がすごく強くあり、多分どの製薬会社もデータベース自体の容量がかなり増えてきているのではないかと思っています。そしてそれに伴ってデータベースを新しくしたり、構築し直したりされる会社が徐々に増えてきているな、かなり方向が変わってきたなと感じるようになりました。
松林
そうですね、製薬会社でもRWDデータの利活用をミッションに掲げた部門も立ち上がり、ようやく会社としてデータを保持し利活用していく文化ができ始めてきた時期だと感じています。新薬開発などのデータベースの利活用が現状ではまだあまり進んでいない領域においても、せっかく社内にデータをお持ちであれば、可能性のある全ての部門でデータベースを効果的に使っていただけるようになってくると、コストパフォーマンス面の意味も含めさらなるデータ利活用の幅が広がってくると思います。
そのためにも今後、データベースベンダーである当社が使い方に関してより具体的な情報を発信し、利活用をしていただけるためのストレージなどインフラも含めたトータル的なサービス提供をすることが、今後はさら求められてくると思います。
さまざまな具体的な活用実例も含め、セミナー、講演会のような形で今後、外部に発信していくことも、当社として積極的に取り組もうと思っています。
今日はいろいろ話を聞かせていただきありがとうございました。
鈴木
ありがとうございました。