リアルワールドデータ(RWD)の新たな可能性 電子カルテとDPC、両データで見る新しい医療インサイト MDV/TXP Medical共催 無料オンラインセミナー

コラム

ヘッダー画像

心不全治療薬の惰性投与、漸増、中止に関する多国間観察研究(EVOLUTION HF)RWD × 医学論文解説

SHARE

論文紹介

日本、スウェーデン、米国における心不全治療薬の実臨床における投与実態を把握する記述的研究で、どれくらいガイドラインに沿って薬物治療されているかについて惰性投与、漸増、中止の観点で検討されている。

心不全治療薬の惰性投与、漸増、中止に関する多国間観察研究(EVOLUTION HF)

Gianluigi Savarese, Takuya Kishi, Orly Vardeny, Samuel Adamsson Eryd, Johan Bodegård, Lars H. Lund, Marcus Thuresson, Biykem Bozkurt

題名Heart Failure Drug Treatment—Inertia, Titration, and Discontinuation: A Multinational Observational Study (EVOLUTION HF)
著者Gianluigi Savarese, Takuya Kishi, Orly Vardeny, Samuel Adamsson Eryd, Johan Bodegård, Lars H. Lund, Marcus Thuresson, Biykem Bozkurt
出典JACC: Heart Failure
領域心不全

Heart Failure Drug Treatment-Inertia, Titration, and Discontinuation: A Multinational Observational Study (EVOLUTION HF) – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36202739/

背景

ガイドラインでは、駆出率が低下した心不全患者の死亡率/再入院率を低下させるために、複数の「ガイドラインに基づいた薬物療法(GDMT)」を早期に開始することが推奨されている。GDMTの使用法を理解することは臨床診療を改善するために重要である。本研究では、日本、スウェーデン、米国のリアルワールドにおけるGDMTの使用状況を明らかにすることを目的とした。

方法

EVOLUTION HF(Utilization of Dapagliflozin and Other Guideline Directed Medical Therapies in Heart Failure Patients:A Multinational Observational Study Based on Secondary Data)は、日常診療データベースを用いたコホート研究である。心不全により入院した心不全患者(hHF)のうち、退院後12ヵ月以内にいずれかのGDMTを開始した患者を対象とした。ダパグリフロジン(試験開始時に承認されていた唯一の選択的SGLT2阻害薬)、サクビトリル/バルサルタン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を個別に検討した。投与量と中止は開始後12ヵ月間で評価した。目標用量はガイドライン推奨用量の100%以上とした。

結果

全体で266,589例が組み入れられた。hHFからGDMT開始までの平均期間は、新規GDMT(ダパグリフロジンまたはサクビトリル/バルサルタン)が他のGDMTよりも長かった:39日と44日対12~13日(日本)、44日と33日対22~31日(スウェーデン)、33日と19日対18~24日(米国)であった。12ヵ月以内に治療(ACE阻害薬またはARBからサクビトリル/バルサルタンへの切り替えを含まない)を中止した患者の割合は、国別のプールではダパグリフロジン23.5%、サクビトリル/バルサルタン26.4%、ACE阻害薬38.4%、ARB33.4%、β遮断薬25.2%、MRA42.2%であった。目標用量達成率はそれぞれ75.7%、28.2%、20.1%、6.7%、7.2%、5.1%であった。

結論

新規GDMTsの投与開始は他のGDMTsに比べて遅れている。GDMTsの目標用量を投与され、増量が必要な患者は少なかった。継続率はダパグリフロジンが他のGDMTsより高かった。


前田 玲

日本薬剤疫学会 認定薬剤疫学家
外資系製薬会社にて20年以上医薬品安全性監視関連業務(RMP、使用成績調査等)に従事してきた。また業界活動を通して薬機法、RMP、GPSP、データベース・アウトカムバリデーション関連の通知類に対してコメントしてきた。現在、MDV社等の顧問として医薬品の安全性管理の観点より助言している。

page top