HTA(医療技術評価)とは?費用対効果評価の考え方と共に解説 #069
2024.04.26
2024.05.10
HTA(医療技術評価)はまだ新しい制度で、認知度は高くありません。しかし、患者中心の医療を提供する上で必要な制度であり、特に糖尿病などの長期的に治療を継続しなければならない疾患にとっては非常に重要です。HTAがどのような制度なのか、費用対効果評価制度と併せて知っておきましょう。
本記事では、現在の日本でHTAが求められる理由や、HTAにおける費用対効果評価制度の内容などを詳しく解説します。
目次
HTA(医療技術評価)とは
HTA(医療技術評価)とは、医療技術の効果や影響について医学的・経済的・社会的な面から総合的に評価することです。HTAの定義は幅広く、評価そのものや評価から薬の給付判断や価格設定をする研究領域を指す場合もあります。
HTAの目的は、効果的な保険医療を提供し、医療システムの効率を上げることです。そのために、健康効果や費用などあらゆる側面から医療技術を検証します。例えば、薬の使用を検討する場合は、薬を使った場合の費用と、薬を使わなかった場合の継続的な治療費を比べ、そこに救命率やQALYなどを加味し、総合的に評価します。
糖尿病に代表される長期治療が必要な疾患に対し、医療経済面での評価が重視されるようになったことで、HTAの重要性はより注目されるようになりました。
HTA(医療技術評価)が求められる背景ー日本の糖尿病治療の現状ー
HTA(医療技術評価)が求められている背景として、日本の糖尿病治療の状況を紹介します。厚生労働省によると、糖尿病の予備軍を含めた日本の糖尿病患者数は、2016年時点で約2,000万人で、20~64歳の約10人に1人が糖尿病もしくは糖尿病予備軍と推計されています。(※1)
糖尿病治療の目的である、健康な人と変わらないQOLの維持と寿命の確保を実現するには、長期に渡る治療が必要です。また、糖尿病以外にも長期治療が必要な疾患は多くあります。そうした病の治療を継続するには、患者の治療費負担も考えなければいけません。そのような背景から、HTAの重要性は高まっています。
※1:厚生労働省「平成30年版厚生労働白書-障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に-」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/18/dl/all.pdf (入手日付2023-07-26)
HTAにおける費用対効果評価の概要
HTAにおける費用対効果評価制度は、日本では2012年頃から導入が検討され始めました。2016年からは試験導入が始まり、2019年には厚生労働省によって正式に制度化されています。一般的に費用対効果はコストパフォーマンスと同じ意味で使われますが、HTAにおける費用対効果は異なります。新しい医療技術や薬と、既存の標準的な治療や薬の費用と効果を比べて評価するのがHTAにおける費用対効果評価です。
対象品目の選定基準
費用対効果評価の対象品目は、医療保険財政への影響が大きく、革新性の高い薬です。薬価算定方式や選定基準に応じて、H1~H5の区分に分けられています。費用対効果評価制度が導入された直後の対象品目は数品目のみでした。しかし、年々対象品目は増えてきています。
なお、選定基準は厚生労働省が以下のように定めています。(※2)
※2:厚生労働省「費用対効果評価の対象品目の選定基準」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000540829.pdf (入手日付2023-07-14)
評価手法
費用対効果の評価手法では主に、生活の質を表すQOLに生存年数をかけた数値であるQALY(質調整生存年)を用い、1QALYを獲得するために必要な費用ICER(増分費用効果比)で評価します。500万円/QALY(上限、1000万円/QALY)を基準として、算出したICERがこの値を超えた場合は価格を段階的に引き下げて調整をします。なお、この手法は費用対効果評価制度を導入している諸外国と同じですが、基準値は日本独自のものです。
評価手法の中心となる基準値については、一人当たりのGDPや支払意思額調査を基に算出することも検討されていますが、賛否が分かれている状態です。また、今後増えていくであろう高額な薬や医療に対し、この基準値は妥当であるか専門家の間でも議論がされています。
評価体制・プロセス
費用対効果評価制度の評価体制やプロセスとして、まず対象品目になった製品の分析と評価が進められます。期間は1年~1年半ほどです。その後、最終的な総合評価と価格が決定します。(※3)総合評価が決定する際には、ICERだけでなくさまざまな観点からの評価が下されます。
これらの業務の公的な専門組織として、国立保健医療科学院に保健医療経済評価研究センターが設置されました。しかし、まだ制度としては課題も多く、例えば患者視点の意見が反映されない点などが挙げられます。
HTAにおける費用対効果評価は2022年にも改革が行われ、一部のプロセスや分析期間が見直されました。今後も改正される可能性が高いため、評価体制やプロセスは大きく変化することが予想されます。
※3:厚生労働省 「費用対効果評価制度について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000808909.pdf (入手日付2023-07-14)
HTAは患者中心の医療において重要な制度
HTAは、患者中心の医療を提供するためには欠かせない制度です。特に、糖尿病といった治療が長期にわたって行われる疾患においては、医学的な面だけでなく経済的な面での評価が必要です。日本でも、今後さらにHTAの重要性が高まっていくと考えられます。しかし、HTAはまだまだ新しい制度です。この先、制度の見直しや改革が繰り返されることによって、より効果的な評価ができるようになるでしょう。