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医療データの利活用とは?重要性やメリット、課題まで解説

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医療データの利活用では、健康・医療・福祉のビッグデータの活用により、社会課題の解決に役立てるのが目的です。国や行政・医療機関・研究機関・患者がこれらの情報にアクセスし、利用できる仕組みを構築しています。

医療データの利活用が進めば、行政は必要な給付を必要な人に届けたりる、患者は適切な医療を選択できたりするきるなどの効果が期待できます。

本記事では、医療データの利活用とは何か、重要性やメリット、課題を解説します。

医療データの利活用とは

医療データの利活用とは医療分野でICT化を進めることです。具体的には、医療ビッグデータを利用し適切な医療を提供したり、健康・医療・福祉の課題解決に役立つ情報提供ができたりする、プラットフォーム構築を目指しています。

これにより、患者はどの病院でも適切な医療を受けられ、医療従事者がさらなる健康増進に貢献できる土台が整います。また、国や自治体、研究機関では、災害時の迅速な医療提供や医療経済財政の持続可能性確保、新薬・医療技術の創造推進が可能です。この取り組みでは、 セキュリティとプライバシーが保護された医療プラットフォームで情報交換をします。

上記の達成に向け、必要となる前提や用語を解説します。

医療ビッグデータ

医療ビッグデータとは、医療データ利活用のベースとなるデータのことです。具体的に、医療分野のビッグデータは、個人の健康状態や病歴から、各種検査結果などを集めた大量のデータ群です。

ビッグデータは従来のコンピューターでは全体像を 把握するのが 困難とされていました。しかし、近年のIT技術の発達により、これらのデータをリアルタイムで収集し、分析・管理が可能となり、利活用が広がっています。

データヘルス改革

データヘルス改革とは、医療だけでなく健康や介護分野のデータも連結し、利活用を推進する取り組みのことです。これにより、国民の健康寿命増進や医療現場の負担軽減、新薬・治療法の早期開発を目指します。

具体的には、国では以下4つの取り組みを進めています。(※)

  1. ゲノム医療・AI活用の推進
  2. 自身のデータを日常生活改善などにつなげるPHR
  3. 医療・介護現場の情報利活用の推進
  4. データベースの効果的な利活用の推進

※参考:厚生労働省.「今後のデータヘルス改革の進め方について(概要)」.
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000613014.pdf ,(2023-09-08).

医療情報の一次利用と二次利用

医療データの利活用では、一次利用と二次利用の2つの方法があります。

一次利用とは、収集したデータを本来の目的で利用することを指します。例えば、医療機関での診療 データを患者本人の診断や、治療方針決定のために活用するときなどです。

二次利用とは、収集したデータを本来の目的以外のために利用することです。例えば、研究機関で薬の副作用を調査したり 、病院の医療効率や質の確認のために活用したりすること などが挙げられます。

なお、一次利用には個人情報が含まれるものの、二次利用では個人を特定されないように匿名化した状態でデータを利用します。

医療データの利活用の重要性

日本では、他に例を見ないスピードで高齢化が進んでいます。そこで問題になるのが、現行の 医療保険制度の維持・持続や、国民の健康寿命の増進です。これらの実現のために、医療データの利活用が重要視されています。

医療データの利活用を進めれば、病気の客観的判断や早期発見が可能です。結果として、医療コストを削減できるなど、日本が抱える医療・介護・健康課題の解決につながると考えられます。

病気の早期発見

画像解析やデータ分析による病変の発見は、AIの方が人間以上に高い効果を発揮しやすい分野です。例えば、レントゲン画像を分析させたり、スマートウォッチで生体データを集めて分析させたりすれば、病気の早期発見や予防医療につながると期待されます。

早い段階で病気を発見できれば、患者に肉体的・金銭的負担をかけず治療を進められ、早期回復・早期社会復帰に役立ちます。

客観的判断が可能

医療データを活用すれば、医師個人の経験や勘に依存しない医療の提供が目指せます。医師とはいえ人間である以上、肉体的・精神的疲労の蓄積や、加齢などの要因によりパフォーマンスに差が出ることは避けられません。

一方、AIであれば常に一定のパフォーマンスが保てるため、医療の属人化解消に役立ちます。結果として、医師不足など医療の地域格差の解消と、全国一律の医療の提供を可能とします。

データが増えるほど正確な判断が可能

AIで精度の高い回答を導くためには、ディープラーニングというビッグデータを活用した機械学習が必要です。なお、学習はデータの量が増えるほど回答の精度を高められます。

このため、医療データの利活用でも分析できるデータが増えれば増えるほど、病気の正確な診断が可能です。また、特定の病気の発症要因など、予防医療に役立つ仕組みの解明も期待されています。

医療コストの削減

AIを医療業務の補助に活用する動きが広がっています。これらの取り組みは医療従事者の負担軽減に役立つ他、AIを活用した病気の診断精度が高まれば、医師の業務代行もできるかもしれません。

また、医療データの二次的活用では、病院経営の効率化も期待されます。待ち時間などの無駄を削減し効率的な医療を提供できれば、医療コスト全体の削減に役立つでしょう。

医療データの利活用のメリット

医療データの利活用で得られるメリットを解説します。

医療の質向上

現状では、医療データは患者とそれぞれの病院の医療従事者で共有されています。また、患者がアクセスできる医療データも、受診履歴や服薬履歴などの一部に限られています。以上のように、治療を検討するにしても、自分と同じ体質の人に効果があるかなど、最適な選択肢が探しづらい状態です。

医療データの利活用が進めば、体質や既往歴、服薬状況により、各治療方法にどのような効果があったかなどの結果を蓄積し、分析が可能です。それらのデータを基 にして、より患者個人の体質や状態にあった適切な治療を選択できるようになります。

医療の技術革新

医療の技術革新では、研究機関や医療品メーカーが必要な情報に即座にアクセスできないため、情報収集だけでも多くの工数が生じています。例えば、新薬の被験者を集めたいとしても患者情報が統一されていなければ、情報収収集のためだけに多くの時間とコストを投じなければいけません。

医療データの利活用が進めば、被験者を集めやすくなるだけでなく、治験の情報収集や、新薬を市場に投入した後の評価調査も容易になります。そのため、開発から検証までのプロセスが短縮され、医療の技術革新を早めることができます。

医療資源の最適化

パンデミックの発生などにより行政への報告業務が新たに追加されれば、医療従事者は通常業務に加え、新たな業務をこなさなければいけません。これでは、人手不足の現場にさらなる業務負担を強いることとなり、本来の診 療業務もままなりません。

医療プラットフォームのように、行政と医療機関が同じ仕組みを使えれば、医療従事者の通常業務のデータ入力だけで、現場の状況を即座に共有できます。通常医療だけでなく、感染症のパンデミックが起こったときの医療資源の最適化にも役立ちます。

社会保障制度の持続可能性

医療データを活用できれば、医療給付の優先順位や必要な対象を明確化できます。そのため、給付を支えるためにどの程度の負担が必要かが分かり、社会保障財源の適正化につながると期待されています。

必要な方に必要な給付を届ける仕組みを整えることは、持続可能な社会保障制度を整える上でも重要です。

医療データの利活用の課題

医療データの利活用では、個人情報の保護と良質なデータの収集の2つの課題があります。それぞれ解説します。

個人情報の保護

医療データの利活用では、データ取得の同意のあり方や管理・利活用の方法、医療従事者が確認できる範囲などに基本的なルールが定められていません。

なお、患者が診療のために自身のデータを利用するときは、個人情報保護法が適用されます。また、研究機関の研究開発で適用されるのは、個人情報保護法の他、次世代医療基盤法などです。

個人情報をどのように保護しながら医療データの利活用を進めるかが課題となっています。

良質なデータの収集

民間医療機関ではさまざまなシステムを導入しており、医療データ自体の内容や管理方法も異なります。そのため、現状では、標準化されたデータを共有する基盤自体が存在していません。

また、医療分野をデジタル化するための包括的なシステムが存在していない点も問題です。

このため、医療データの利活用のためにデータを集めても、国際的に整合性のとれた 良質なデータを収集できるかどうかが課題として挙げられます。

医療データの利活用促進に向けた取り組み

以上のように、医療データの利活用では課題もあるものの、解消に向けた動きも広がっています。利活用促進に向けた取り組みを2つ紹介します。

既存データベースの一元化への取り組み

厚生労働省では個人情報の確実な保護を前提に、健康・医療・介護のビッグデータを連結して一元化した、保険医療データプラットフォームの構築を進めています。(※)

具体的には、厚生労働省が提供する医療件のレセプトデータ・NDBや、介護保険のレセプトデータ・介護DBの連結が挙げられます。

※参考:厚生労働省.「データヘルス改革推進本部」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148743.html ,(2023-09-01).

さまざまな医療情報利用の活性化への取り組み

2017年には、医療情報の二次活用を促すための法律『医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律』が成立しました。 (※)これにより、改正個人情報保護法に配慮しながら医療データの活用が可能です。

具体的には、国の認定を受けた機関は、収集した医療情報を匿名化した上で研究機関などに提供できます。なお、提供する際は、上記の内容を事前に患者に知らせる必要があります。また、患者は情報提供を 拒否することも可能です。

※参考:e-Gov法令検索.「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」.
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=429AC0000000028 , (2023-09-08).

医療データの利活用は社会問題の解決に不可欠なテーマ

医療データの利活用とは、保険者や医療機関、介護施設などに散らばるデータを一元管理し、そのビッグデータを社会課題解決に利用しようとする取り組みです。

具体的には個々人にあった医療の提供による健康寿命の長期化、新薬・新規治療方法の早期開発、持続可能な保険制度や医療提供の仕組みの構築などが挙げられます。

医療データの利活用は超高齢化社会を迎える日本にとって、社会問題を解決するための重要なテーマと言えるでしょう。

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