希少疾患、指定難病とは? #78
2024.07.16
2024.07.16
難病と聞くと治療が難しい疾病を思い浮かべるかもしれません。難病は治療方法だけではなく、さまざまな条件に基づいて定義されています。場合によっては、難病から派生して指定難病、希少疾患に分類されることもあります。
本記事では難病の定義だけでなく、指定難病、希少疾患の定義とその違いについて解説します。
目次
難病とは
難病とは、2015年1月に施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」で次のとおりに定義された疾病 のことです(※)
- 発病の機構が明らかになっていない
- 治療方法が確立されていない
- 希少な疾病である
- 疾病によって長期にわたり 療養が必要となる
この定義においては、患者数の人数が定められていません。また、がんや精神疾患、感染症といったように個別に施策が整備されている疾病 については、難病の対象外です。
※参考:厚生労働省. 「指定難病の要件について(追記の案) P2.“難病の定義”」. https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/2-2_2.pdf , (2015-01-23).
指定難病とは
指定難病も難病法で定義されています。指定難病は、難病の条件を満たしているのに加えて、次の条件を満たしている疾病が対象です。
- 患者数が日本国内で一定の人数に達していない
- 客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立している
つまり、難病の中でも患者が一定数より少なく、客観的な診断基準が備わっている疾病が指定難病として扱われます。指定難病の定義である一定の人数というのは、人口の0.1%程度 です。指定難病の対象は難病法施行の2015年1月時点では110疾病でしたが、2021年11月時点で338疾病 まで増加しています(※)。
また難病とは異なり、指定難病は医療費助成の対象です。
※参考:厚生労働省. 「難病・小慢対策の見直しに関する意見書(令和3年7月)を踏まえた見直し(案)について(参考資料) P6.“指定難病患者への医療費助成の概要”」. https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/2-2_2.pdf , (2022-07-27)
希少疾患とは
希少疾患は、患者数が日本国内で5万人未満の疾病です(※1)。日本の人口で換算すると割合は約0.04%未満と指定難病よりも少なくなります(※2)。しかし、この割合は一つの希少疾患のケースです。世界では希少疾患が6,000以上あると考えられています(※3)。そのため、希少疾患の合計で考えると多くの患者がいることが予想できるでしょう。
希少疾患の症状は免疫力の低下や手足の痛みなど、疾患によってさまざまです。症状だけでなく、希少なケースであるため診断に時間がかかる、社会での理解や支援が進んでいないなどの課題も多くあります。
※参考1:厚生労働省. 「希少疾病用医薬品・希少疾病用医療機器・希少疾病用再生医療等製品の指定制度の概要 “指定制度について”」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000068484.html , (2023-12-11).
※参考2:日本製薬工業協会. 「難病・希少疾患に関する提言 “希少疾患、難病、指定難病の定義”」. P3.https://www.jpma.or.jp/information/industrial_policy/rare_diseases/jtrngf0000001r2a-att/teigen.pdf , (2023-12-11).
※参考3:日本製薬工業協会. 「希少疾患患者さんの困りごとに関する調査 “希少疾患、難病、指定難病の定義”」. P7.https://www.jpma.or.jp/information/industrial_policy/rare_diseases/jtrngf0000001r2a-att/teigen.pdf , (2023-12-11).
指定難病と希少疾患の違い
指定難病と希少疾患では、定義づけている法律が異なります。指定難病について定義しているのは難病法ですが、希少疾患は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、いわゆる薬機法にて定義づけられています。このことから、指定難病と希少疾患とは次のように異なるといえるでしょう。
- 指定難病:治療方法が未確立の疾病を抱える患者の医療費負担軽減を目的とした、難病法に基づく日本独自の概念(※1)
- 希少疾患:希少疾病用医薬品の研究開発を促進する目的で定義された用語(※2)
指定難病と希少疾患では定義づけている法律以外にも違いがあります。例えば、指定難病であれば医療費の助成が受けられますが、希少疾患は必ずしも助成が受けられるわけではありません。難病指定を受けた希少疾患でなければ医療費の助成は受けられないという課題が残されています。
※参考1:厚生労働省. 「難病対策」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nanbyou/ , (2023-12-14).
※参考2:厚生労働省. 「希少疾病用医薬品・希少疾病用医療機器・希少疾病用再生医療等製品の指定制度の概要」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000068484.html , (2023-12-14).
アプローチ方法の違い
指定難病は、医療費の助成や希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の開発促進などでアプローチが行われており、これは希少疾患への支援も兼ねている状況です。 しかし希少疾患は患者数が少ないため、診断が難しい傾向にあります。
患者自身はもちろん、家族や一般診療所、専門医、さまざまな団体など、多くの関係者の連携によるアプローチで早期の発見や診断につなげていくことが望まれています。
指定難病に対する治療法
指定難病に対する治療方法は患者の状態や疾病によって異なるため、医師の判断が尊重されます。
各都道府県では難病や指定難病を治療する体制として、次の3つの医療機関を指定しているケースがあります(※)
- 難病診療連携拠点病院:早期に正しい診断をすることが目的
- 難病診療分野別拠点病院:専門的な診断と治療を提供することが目的
- 難病医療協力病院:患者の身近な医療機関として医療提供・支援することが目的
※参考:公益財団法人 難病医学研究財団. 「FAQ 代表的な質問と回答例」. https://www.nanbyou.or.jp/entry/1383 , (2023-12-11).
希少疾患に対する治療法
希少疾患の治療法として、オーファンドラッグの開発が進められています。オーファンドラッグは開発コストがかかる一方で、コストを回収できない傾向にあるため、製薬会社での積極的な開発が進んでいませんでした。しかし、2013年の薬事法 の改正 によって開発費用の援助がスタートしました。その結果、オーファンドラッグの開発は促進されている傾向にあります。
また、希少疾患は医師であっても判断しにくいものもあるため、一部の専門医からなる学会は、一般の医師らに向けに ガイドラインを作成しています。
※参考:厚生労働省. 「希少疾病用医薬品・希少疾病用医療機器・希少疾病用再生医療等製品の指定制度及び再審査期間延長制度について」. https://www.nibiohn.go.jp/nibio/part/promote/files/48f09eb927520a338f402e9150d960be0969b81e.pdf , (2016-10).
希少疾患や指定難病への理解を深めよう
難病と一言でいっても、その種類は膨大です。難病の中でも一定数の患者しかいない疾病は指定難病と呼ばれ、その数は338にものぼります。指定難病は人口の0.1%程度の患者数を指しますが、さらに少ない約0.04%未満しか患者がいない疾病が希少疾患です。
希少疾患、指定難病ともに診断には専門的な知識が求められます。また希少疾患、指定難病にも関わらず診断されていないケースもあります。世間に認知されていない疾病もあるため、今後も理解を深めていきましょう。