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病床の機能分化とは?各方面に与える影響について解説 #88

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病床の機能分化とは、今ある一般病床や療養病床を有する病院および診療所を4機能に再編し、医療体制の強化を目指す医療構想です。2025年には団塊世代の全てが75歳以上の後期高齢者になるため、病床不足が懸念されています。

そこで、病床を高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの機能に分けることで、医療の効率化や患者の容態に適した病院の選択が可能になると期待されています。

本記事では、病床の機能分化の概要と、機能分化が医療体制・製薬会社・患者に与える影響を解説します。

病床の機能分化とは

病床の機能分化とは、医療機関の病床を機能ごとに分け、相互連携により、患者それぞれの容態に合った良質な医療を受けられる体制を整えようとする医療構想です。

現在の病床は一般病床や療養病床に分けられ、ニーズに対して病床数が不足しているところもあります。この状況を打破するため、2025年までに病床を高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能の4つに再編し、医療から介護まで、必要に応じてシームレスに利用できる体制を目指しています(※)。

※参考:厚生労働省. 厚生労働省. 「地域医療構想について」P4~6.
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000094397.pdf(2023-11-08).

1.病床の機能分化の背景

病床の機能分化が進んでいる背景は、現在の病床が一般病床に偏っていることに起因します。現在は、緊急入院が必要な患者を優先するために、療養や介護を必要とする回復期・慢性期の患者が、安心して長く過ごせる病床が少ない状態です。

2025年には人口比率の高い団塊の世代が75歳以上となるため、さらなる病床不足が予想されます(※)。そこで国は、2014から病床機能報告制度を開始してデータを集め、病床数の再編を図ってきました(※)。

※参考:厚生労働省. 「地域医療構想について」P4 , 5.
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000094397.pdf, (2023-11-08)

機能分化の目的

病床機能の分化の目的は、必要な病床数の確保です。高度急性期機能は対応が可能な限られた医療機関に任せ、急性期機能、回復期機能、慢性期機能はその他の病院で対応します。

さらに、それぞれの病床機能の連携を強化し、急性期から回復期、慢性期まで、必要な医療を受けられることを目指しています。病床の機能が確立すれば、医療従事者の負担軽減も可能になるかもしれません。

病床の機能分化が医療サービスに与える影響

病床の機能分化を進めることで、医療サービスには以下の影響があると考えられています。

  • 医療サービスの効率化
  • 医療サービスの質の向上

それぞれ解説します。

1.医療サービスの効率化

まずは医療サービスの効率化に期待ができます。現在の一般病床では、病院により担う機能が異なります。そのため、医療資源が急性期医療に偏るなど、バランスのよい供給ができていません。一方、病床の機能分化により、役割分担と連携を進めることで、医療資源をより効率的に分配することが可能です。

2.医療サービスの質の向上

医療の分業化が進めば、医療サービスの質の向上にもつながります。患者の状態に適した医療を提供できるだけでなく、回復期や慢性期など医療ニーズの高い病床に資源が適切に分配されれば、人材不足の解消も期待できます。また、それぞれの病床が担う役割に集中できる点もメリットです。

病床の機能分化が製薬会社に与える影響

病床の機能分化が進めば、病院の機能に順じて患者の容態[1] も変わるため、それぞれの病院で必要となる薬剤は変わってきます。そのため、市場自体が大きく変化すると予想され、製薬会社の販売する薬剤の種類や営業方法などにも変更が求められます。今後は医療関係者に直接、医薬品の情報提供や販売を行なうMRだけでなく、医学や製薬情報に精通したMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)なども重要になるでしょう。

また製薬会社にとっては、地域医療連携推進法人の存在も無視できません。地域医療連携推進法人とは、良質・適切な地域医療の効率化のために病院同士が連携する一般社団法人のことです。医療法に定められた基準を満たすものを都道府県知事が認定します。

同法人では、医薬品の共同購入が可能となるため、製薬会社にとっての営業先として、重要となる可能性を秘めています。

※参考:
厚生労働省. 「地域医療連携推進法人制度について」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html , (2023-11-14).
厚生労働省. 「地域医療連携推進法人制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000205204.pdf ,(2023-11-14).

病床の機能分化が患者に与える影響

現在、一般病棟で患者7名に対し看護師1名を配置する7対1体制を取っている急性期病院では、平均在院日数を18日以内 とし、なおかつ重症度の高い患者が常に一定数以上入院していなければならないなど、運用上守らなければならないルールがいくつかあります。このため、例えばがんの手術
を受けた後、自宅で安静にしていればいい状態になるまで入院体調が回復するまで入院するといった柔軟な選択ができません。

さらに患者が自宅へ退院する割合である、在宅復帰率が8割75%以上でなければならないため、転院よりも自宅などで療養するように支援する必要があります。

病床の機能分化が進めば、急性期の治療を受けた後は、回復期や慢性期を過ごすための転院先が増える上、自宅で療養することになったとしても、近くの診療所に通って治療を受けられるといったように、選択肢が広がります 患者自身で調べるケースはもちろん、急性期病院からの紹介を受けるケースなども考えられ、患者は容態にあった、より適切な医療を選択できるようになると期待されています。本人が回復するまで医療を受けられれば、患者家族の負担も軽減されるかもしれません。

病床機能の分化により医療課題の解決が期待されている

病床を高度急性期機能・急性期機能・回復期機能・慢性期機能の4つに再編し、医療の効率化や、より患者自身に適した医療の選択を実現しようとする医療構想が病床機能の分化です。国は2025年に現在ある病棟を上記のように再編し、医療課題の解決を目指しています。

病床機能の分化により、今後ニーズが高まる病状の回復・療養を専門とした病床の増加や、医療現場に見合った資源の効率的な配置が実現する見込みです。また各地域に回復・療養期を過ごせる医療施設が増えれば、患者は自宅近くで過ごしながら必要な治療を受けることが可能になります。医療経済にも大きな影響を与えると予想されるため、日頃から動向の確認が大切です。

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