コラム

ヘッダー画像

イストラデフィリン治療を受けたパーキンソン病患者におけるレボドパの用量漸増に関するリアルワールドエビデンスRWD × 医学論文解説

SHARE

論文紹介

パーキンソン病患者に必須治療薬であるレボドパを投与すると徐々に効きにくくなる「ウェアリングオフ現象」が認められることがある。このため同剤を漸増処方することで効果を維持させることがあるが副作用も発現しやすくなり、臨床家にとってジレンマとなる。当研究ではMDVデータを用い、「レボドパ含有製剤で治療中のパーキンソン病におけるウェアリングオフ現象の改善」を効能効果とする選択的アデノシンA2A受容体拮抗薬であるイストラデフィリンの、レボドパ増量処方に対する影響について分割時系列解析を実施し検討している。

イストラデフィリン治療を受けたパーキンソン病患者におけるレボドパの用量漸増に関するリアルワールドエビデンス

Nobutaka Hattori 1, Daijiro Kabata 2, Shinji Asada 3, Tomoyuki Kanda 3, Takanobu Nomura 3, Ayumi Shintani 2, Akihisa Mori 3

題名Real-world evidence on levodopa dose escalation in patients with Parkinson’s disease treated with istradefylline
著者Nobutaka Hattori 1, Daijiro Kabata 2, Shinji Asada 3, Tomoyuki Kanda 3, Takanobu Nomura 3, Ayumi Shintani 2, Akihisa Mori 3
出典PLoS One.
領域パーキンソン病

PLoS One. 2023 Dec 22;18(12):e0269969. doi: 10.1371/journal.pone.0269969. eCollection 2023.
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0283931

背景

選択的アデノシンA2A受容体拮抗薬であるイストラデフィリンは、米国および日本において、レボドパ/脱炭酸酵素阻害薬の併用療法として、ウェアリングオフ現象を有する成人のパーキンソン病(PD)に適応がある。本研究では、イストラデフィリン処方開始患者において、レボドパの用量漸増の経時的パターンを観察することを目的とした。

方法

日本の医療情報データを用いて、分割時系列解析(interrupted time series analyses)を行い、イストラデフィリン処方開始前後の患者におけるレボドパ1日投与量(LDD、mg/日)の勾配を比較した。データは、イストラデフィリン処方開始(1ヵ月目)を基準として、イストラデフィリン処方前(72ヵ月前~0ヵ月)、イストラデフィリン処方初期(1ヵ月後~24ヵ月後)、イストラデフィリン処方後期(25ヵ月後~72ヵ月後)の期間ごとに分析した。サブグループ解析では、イストラデフィリン開始前のLDD(400mg/日未満、400mg以上600mg/日未満、600mg/日以上)、イストラデフィリン開始前のモノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬、ドパミンアゴニストによる治療の有無を検討した。

結果

解析対象は4026例で、ベースラインの平均LDD(SD)は419.27mg(174.19)であった。レボドパ600mg/日以上の投与を受けている患者、MAO-B阻害薬またはCOMT阻害薬の投与を受けていない患者では、イストラデフィリン処方前とイストラデフィリン処方後期とでLDD増加勾配が有意に減少した(レボドパ600mg/日以上、毎月-6.259mg/日、p<0.001;MAO-B阻害薬なし、毎月-1.819mg/日、p=0.004;COMT阻害薬なし、毎月-1.412mg/日、p=0.027)

結論

日本の処方データの分析より、イストラデフィリン処方開始患者、特にレボドパ600mg/日以上の処方を受けている患者において、LDD増量処方の遅延化が観察されたことが示され、イストラデフィリンがLDDの漸増を緩徐化する可能性が示唆された。これらの所見から、他のレボドパ併用療法を開始する前にイストラデフィリンを開始することで、LDDの増量が緩和され、イストラデフィリン長期処方におけるレボドパ誘発性合併症の発現や重症度が軽減される可能性が示唆された。


前田 玲

日本薬剤疫学会 認定薬剤疫学家
外資系製薬会社にて20年以上医薬品安全性監視関連業務(RMP、使用成績調査等)に従事してきた。また業界活動を通して薬機法、RMP、GPSP、データベース・アウトカムバリデーション関連の通知類に対してコメントしてきた。現在、MDV社等の顧問として医薬品の安全性管理の観点より助言している。

page top