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コラム

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日本におけるCOVID-19パンデミック前およびパンデミック中の外来診療の対象となる疾患患者の院内死亡数RWD × 医学論文解説

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論文紹介

日本においてCovid-19パンデミックによる緊急事態宣言(1回目:2020/4/7(火)~2020/5/25(木))が発出された際、医療機関への受診が制限されたことは記憶に新しい。国内外のアカデミアによる当論文では、プライマリ・ケアで予防可能な状態(例えば、脱水や胃腸炎、喘息、うっ血性心不全、肺炎球菌性肺炎など)を「外来診療に敏感な状態(ambulatory care-sensitive conditions:ACSCs)」(当翻訳では「外来診療の対象となる疾患」と意訳)と定義し、ACSCに関連する院内死亡数および院内死亡率が緊急事態宣言前後でどのように変化したかを確かめることを通して緊急事態宣言の医療へのアクセスへの影響を検討したものである。マスメディアの報道を通して「緊急事態宣言により糖尿病や高血圧、インフルエンザといった外来治療の対象となる疾患患者の診療が損なわれたのだろう」という印象を直感的にもっていた状況を具体的な指標を用いてその影響の定量化を試みたものである。

日本におけるCOVID-19パンデミック前およびパンデミック中の外来診療の対象となる疾患患者の院内死亡数

Kazuhiro Abe, Ichiro Kawachi, Arisa Iba, Atsushi Miyawaki

題名In-Hospital Deaths From Ambulatory Care–Sensitive Conditions Before and During the COVID-19 Pandemic in Japan
著者Kazuhiro Abe, Ichiro Kawachi, Arisa Iba, Atsushi Miyawaki
出典JAMA Network Open
領域COVID-19

JAMA Netw Open. 2023 Jun 1;6(6):e2319583. doi: .10.1001/jamanetworkopen.2023.19583
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2806472

重要性

COVID-19パンデミックは、外来診療の対象となる疾患(ACSCs)に対する医療アクセスの悪化の一つの要因である可能性がある。

目的

日本におけるCOVID-19緊急事態宣言後に、ACSCに関連する院内死亡数および院内死亡率が変化したかどうかを確認すること。

方法

①デザイン・条件・参加者:このコホート研究では、差分の差分法(difference-in-differences design)を用い、COVID-19パンデミックの緊急事態宣言前(2015年1月1日~2019年12月31日)と宣言後(2020年1月1日~2020年12月31日)におけるACSCの転帰を比較した。解析には日本全国242の急性期病院の退院サマリーデータを用いた。対象は、研究期間中(2015年1月1日~2020年12月31日)にACSCを発症した患者の予定外の入院とした。データ解析は2022年8月16日から12月7日の間に実施した。
②曝露:2020年4月に日本政府が発表したCOVID-19緊急事態宣言を外生的ショックとみなした。
③主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは、ACSCに関連した院内死亡数、入院数、院内死亡率とした。

結果

男性15,318例(54.1%)、年齢中央値(IQR)76歳(58-85歳)、合計28,231例のACSC関連入院が観察された。院内死亡は2,117例(7.5%)であった。入院件数は全体的に減少し(発生率比[IRR]、0.84;95%CI、0.75-0.94)、慢性疾患では減少し(IRR、0.84;95%CI、0.77-0.92)、ワクチンで予防可能な疾患では減少した(IRR、0.58;95%CI、0.44-0.76)。しかし、急性疾患では院内死亡(IRR、1.66;95%CI、1.15~2.39)および病院到着後24時間以内の院内死亡(IRR、7.27×106;95%CI、1.83×106~2.89×107)が増加した。院内死亡率は急性疾患で増加し(IRR、1.71;95%CI、1.16~2.54)、24時間院内死亡率も全体(IRR、1.87;95%CI、1.19~2.96)、急性疾患(IRR、2.15×106;95%CI、5.25×105~8.79×106)、ワクチンで予防可能な疾患(IRR、4.64;95%CI、1.28~16.77)で増加した。

結論

本コホート研究から、日本では2020年のCOVID-19緊急事態宣言後に院内死亡数が増加し、特に急性ACSCと入院後24時間以内の死亡が増加することがわかった。この所見は、急性ACSC患者に対する良質なプライマリ・ケアおよび入院治療へのアクセスがパンデミック中に損なわれた可能性を示唆している。


前田 玲

日本薬剤疫学会 認定薬剤疫学家
外資系製薬会社にて20年以上医薬品安全性監視関連業務(RMP、使用成績調査等)に従事してきた。また業界活動を通して薬機法、RMP、GPSP、データベース・アウトカムバリデーション関連の通知類に対してコメントしてきた。現在、MDV社等の顧問として医薬品の安全性管理の観点より助言している。

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